CRPGはAAA級作品の夢を見る
今、CRPG再興の熱いムーブメントが起きているのをご存知だろうか。
もちろん、この場合のRPGとは、日本国内では馴染みの深いドラゴンクエストやファイナルファンタジーのような既定の物語とキャラクターを中心に展開する作品ではなく、テーブルトップのRPGに起源をもつ数値とダイス判定でさまざまに物語が変化するPC向けのゲーム作品のことだ。
そのため、今年上半期に発売されて最も話題を呼んだRPG作品であり、以前僕も厳しめの批評を書いた『ファイナルファンタジー7 リメイク』や、映像表現としてならきわめて高く評価できる『ラストオブアス2』のことはいったん忘れてほしい。
そもそも、2000年代は家庭用ゲーム機市場の伸長にあわせてよりマス受けに強いアクションRPGに鞍替えした冬の時代だったという。
潮目が変わったのは2010年代に入り、キックスターターによるクラウドファンディングの普及でゲーム開発者が直接ユーザーから資金調達できるようになったことだ。
そこでは、inXile が後のフォールアウトシリーズの原点となった『Wasteland』の約25年振りの続篇『ウェイストランド2』や、1999年のカルト的名作として知られる『Planescape: Torment』の精神的後継作『Torment: Tides of Numenera』の資金調達に成功し、また、当時深刻な資金難に喘いでいた Obsidian は『Pillars of Eternity』の成功により息を吹き返せた。
いずれの場合も、ブライアン・ファーゴやクリス・アヴェロン、ジョシュ・ソーヤーといった2000年前後の華やかりし時代から活躍する有名クリエイターを擁した、ファンのあいだではすでに実績も知名度も十分な名門企業による古典的作品の後継作だが、この流れがたんに年季の入ったファンの郷愁を呼び覚ましただけではないことは、Larian による『ディヴィニティ:オリジナル・シン』とその続篇がカジュアルなゲーマーからも広く愛されたことが皮肉にも証している。
2017年に発売され、コンシューマー機すべてに移植された『ディヴィニティ:オリジナル・シン2』は、公式の日本語ローカライズの成果もあり日本国内では傑作CRPGとしてよく知られたほぼ唯一の作品だろう。
見下ろし視点とアクションポイント消費型のターン制バトルというクラシカルな要素を軸にしながらも、地形とその状態を利用した多彩な誘発効果で戦略的なクラウドコントロールを楽しめる本作は、物語の魅力と自由度の乏しさからCRPGの新たな傑作とまでいえるかは疑問だが、それでも往年のレガシーに依拠せずに商業的成功を果たした意味と功績はきわめて大きい。
実際、2018年には Owlcat というロシアの新興開発企業が『Pathfinder: Kingmaker』というきわめてシリアスな優れた物語に、複雑で、多様性のあるビルドシステムを実装した真に傑作と呼ぶにふさわしい作品をリリースし、技術的問題に初動は悩まされたものの、コアなファンからの厚い支持を受けて続篇『Pathfinder: Wrath of the Righteous』の資金調達に成功した。
2019年にはエストニアの ZA/UM という新しい開発が『ディスコ・エリジウム』をリリースし、その独創的な油彩画風のヴィジュアル表現とレトロな雰囲気からジャンルの枠を越えて大きな称賛を浴びたのは記憶に新しい――僕自身もそのナラティブの解像度の高さと混沌としたゲームデザインの人間的リアリティを絶賛したのはご承知のとおり。
もちろん、先述の名門企業も、新しい才能と表現が界隈を賑わせるなか黙ってクラウドファンディングし続けたわけではない。
Obsidian は、2018年にマイクロソフトからの買収を発表すると、翌年には『アウター・ワールド』をリリースし、僕自身はけっして高くは評価しないが、近年のガンシューティング物にしてはめずらしい多彩なクエスト攻略と会話選択の豊富さから一般のユーザーを中心に高い評価を獲得した――新作RPG『Avowed』の次世代機 Xbox Series X でのリリースも先日発表したばかりだ。
一方、InXile ではもともと創業者のブライアン・ファーゴが引退を予定していたが、マイクロソフトからの買収が同様に成立すると「35年以上のゲーム業界でのキャリアの中で初めてゲーム開発だけに集中できるときが来た」として引退宣言を撤回――そして今夏、クラウドファンディングに頼らず世に送りだしたのが本作『ウェイストランド3』だ。
Pathfinder: Kingmaker