The Outer Worlds は絶賛すべき?
賛否両論の作品や言論は2種類に分かれる。
何らかの過激さが保守層の堅い反抗心を呼び覚ます場合と作品の外部にある状況やプロモーションなどから周囲の期待が高まり過ぎる場合で、いずれの場合も作品を鑑賞しようという冷静さというか落ち着きを失わせるものだ――そもそも鑑賞能力が備わっているかどうかは別として。
昨年末の『レッド・デッド・リデンプション2』以降、デジタルゲームのとりわけAAAタイトルでは後者の自爆型で瞬間的に燃えあがっては忘れられる作品が少なくなかった。
オープンベータの段階では神ゲーと謳われた BioWare の『アンセム』がその最たる例で、直近では Ubisoft の『ゴーストリコン・ブレイクポイント』だろうか。
もちろん Bethesda のシリーズ最新作『フォールアウト76』も、フィールドで出会う人間はすべて他のプレイヤーという野心的なデザインに挑戦しながらも、ゲーム体験を著しく損なうバグの数々と、前作、前々作からのRPGファンの期待を大きる裏切る出来栄えだったことはゲーマーならご存知だろう。
ゲーム業界のこうした名のある開発の暴発続きが Obsidian の最新作『アウターワールド』に思わぬ好景気をもたらした――ひとことでいえば過大評価だ。
いわく、自由に何でも出来るという感覚・実感が常にあるゲーム。
いわく、選択の幅広さと自由さが織りなす「アウターワールド」の世界はとても怖い場所だが、それだけ魅力も多い。
いわく、一見してありふれたオープンワールドRPGだが、遊ぶほどに老舗ならではの秘伝の味わいが染み渡る。
はたして本当にそうだろうか?
たとえ盗みが見つかっても説得するなり威圧するなりすればちょこっとその組織での悪評ゲージがあがるだけの「自由」にどれほどの価値があるかわからないが、『アウターワールド』はその世界観や会話テキストの作り込みにはある程度成功していてもゲームシステムの面で細かいながらも致命的な問題を抱えている。
絶賛するのはカンタンだが、批判する部分もキチンと指摘してその意味を考えないことには批評家やレビュアーとしては片手落ちもいいところだろう。

『アウターワールド』は、2355年に天才科学者フィニアス・ウェルズが長年行方不明だった輸送船ホープ号からコールドスリープ状態のあなたを強奪、ただちに蘇生し、ほかの有能な入植者を解凍する手助けをしてほしいとしてテラ2という居住可能な惑星に送りだすやや性急な場面展開からはじまる。
このリック風の老科学者をどこまで信じ、いつ裏切るかが本作の山場といえなくもなく、実際に猜疑心の強い仲間のひとりがアンタは汚れ仕事をさせられているだけだと忠告してきたりもするが、コールドスリープ状態の主人公を怪しげな人物が強制的に解凍するという冒頭は『フォールアウト4』への露骨な言及というかオマージュだろう。
ゲーマーの多くに語られていることだが、 開発元の Obsidian は、RPG色の強い初期フォールアウトを制作した Black Isle の元メンバーがスタジオの閉鎖前に立ちあげた会社で、2010年には彼らの手によるものとしては6年振りの『フォールアウト:ニューベガス』を発表してコアなファンから高い評価を得ている。
フォールアウトシリーズというとどうしてもその知的財産権を買い取って『3』『4』そして『76』と続編を制作している Bethesda のイメージが強いが、オリジンという意味では初期作の開発に携わっていたメンバー2人をディレクターに据えた今度の Obsidian の『アウターワールド』の方がよりフォールアウトらしい作品といえるかもしれない。
ちなみに、フォールアウトってなんぞという方は以前オタクの内面を分析した記事でカンタンに説明しているのでそちらを参考にしてほしい。
さて、そういう経緯があってか本作はそのゲームデザインの骨組みと作風はほとんどフォールアウトそのものだが、オープニングから露骨な言及をしているだけあって流石に Bethesda の『4』とは明確な対立軸を打ちだしている。
というのも、あちらでは男性なら既婚の若い退役軍人、女性なら既婚の若い弁護士として、配偶者を眼のまえで殺された恨みを抱えながら誘拐中の幼い息子を探しにいくという主人公の強い設定上の規定があったが、本作ではそうしたロールプレイングの制約はいっさいが意図的に排除されている。
お好みなら若い顔も老いた顔も自由にキャラクタークリエイションで作ることができ、その設定を邪魔するものはゲーム内には何もないよ、というわけだ――もっとも、あなたがどんなに凝った美顔や面白顔を作ろうともイベントリ画面に小さく表示されるだけで、カットシーンでの登場はエンディング含めて1度たりとてないのであまり意味はないのだが。
したがって、多くの好意的な批評や感想が『アウターワールド』の美点としてその「自由」をあげるのは開発元の Obsidian の狙い通りといえる。
当然、批評が問うべきはその「自由」の中身だ。
