小ネタな記事もたまには箸休め的に書いていこう。
おととい、アニメ映画『スパイダーバース』の批評記事でヴィンス・ステイプルスに触れたのは承知の通りだが、彼のインタビューを漁るなかでもうひとり別のミュージシャンがおもしろい受け答えをしているのを見つけた。
ビースティー・ボーイズのアドロックだ。
米国のヒップホップ界には何十人ものレジェンドがいる。
そして、組織文化としては奇妙に保守的なこの業界のレジェンドの半数以上は偽物だと僕は思っている。
実際、2016年に僕的には悪い意味で斬新なフロウで大ブレイクを果たしたリル・ヨッティはそうしたレジェンドに敬意を払わない異端者で、彼の先人への無配慮な発言が波紋を呼び、業界の著名人をして「シーンを前進させる気がないなら音楽を辞めろ」とまでいわしめた。
彼の趣味と批判がどこまで妥当かは置いておくとして、彼の業界がいかに保守的な体質か容易に察せられるエピソードだ、まあ、ビギーこと The Notorious B.I.G は僕も過大評価だと思うけれども。
もちろん、クリエイティヴィティの正統な歴史に公正な批評の場が必要で、批評の応酬には言論の自由が保障された土壌が欠かせないのはいうまでもない。
5、6年も前のことだが、今は亡き某SNSで当時ブレイクしたての 2chainz を絶賛したことがあった。
すると、アメリカの友人や見知らぬひとから霰のごとく寄せられたのは「オリジンから聴きなおせ」という今でいう糞リプの嵐だった。
2PacとBIGを頂点としたレジェンド・リストなるものを送ってきたお節介なひともいたが、最終的に彼らを黙らせられたのはこのひとことだ。
――全部聞いたけど僕がおもしろいと思えるものではなかったよ、ビースティーズ以外はね、彼らのことは昔から尊敬しているよ XD
1990年代の東西対立期のアイドルふたりを推すのはなんとも「オリジン」を軽視したレジエンド・リストだと思うけども、そう、ビースティーズはそれぐらい本当に凄いレジェンドなのだ、彼らへのリスペクトを表明すれば不遜の赦しをもらえるぐらいには。
一般的にビースティーズがいわれるのは白人ラップのパイオニアで、当時はゲットーの音楽に過ぎなかったヒップホップをハードコア・パンクをベースにした音楽性で「郊外」へ持ちだしたとされる。
だから、彼らがいなければエミネムもマックルモアも誕生しなかった……とはあまり思わないが、ヴィンス・ステイプルスの音楽は本当にありえなかったらしい、彼は別のインタビューでそう語っている。
せっかくだからリル・ヨッティと2チェインズのブレイク曲と並べてみよう。
パンクを思わせる技術無視のぶっきらぼうなラップがつぎつぎと畳みかけられ、格好良くもありながらコミカルなサンプリングが(ダサい)ヒップホップにありがちなビートの単調さを裏切っていく。
――信じられないだろ?30年前の曲なんだぜ……。
もっとも、彼らの愛聴者とはけっしていえない僕が尊敬する理由は実はその音楽性の高さとは少し別のところにあったりする。
それは、ビースティーズの音楽がたんに革新的なだけでなく、グループとしてその高度な音楽活動を長期にわたって続けられたことだ。
音楽にかぎった話ではないだろうが、ひとりの人間がクリエイティヴィティを継続的に発揮し続けることはきわめて難しく、それがグループであるならばなにをいわんや、だ。
この部分は少し説明がいるだろうから、次の機会に別の音楽グループに話をうつして説明してみよう。