探究と発見のハックの旅路にダイヴせよ!
インターネットは多くの情報で溢れ返っている。
日本の政治経済ニュースや国際的な事件はもちろん、ブログやSNSでの若者の主張、テイラー・スウィフトの最新楽曲、マッターホルンの美しい映像、深海に潜む魚たち……、我々は電子空間であらゆることを知ることができる。
だが、果たしてこれらの情報は何故存在しているのだろうか?
なぜ、電子空間で我々は「知る」ことができるのだろうか?
電子空間は膨大な情報をもたらす。が、情報はすでに誰かに知られたことでもある。
ユダヤ系の社会学者[p2p type=”post_tag” value=”zygmunt-bauman”]ジーグムント・バウマン[/p2p]は、科学から解釈への移行を指摘する。科学のような真理の探究はもはや求められていない。あるのはただ、既存の知識と目の前の情報がいかに整合しているかを調べることのみだ。
情報は、人の身体に文字を刻み込み、人間をあたかもキョンシーのように呪文で動かす。
物事はますます呪術性を帯びてきている。
情報社会の管理から逃れることを多くの人が訴えるが、実行は容易ではない。刻一刻と変化する社会を生きるのに、電子空間の情報無しでは済ませられないからだ。
しかし、情報が「誰だか知らない誰か」にもたらされ、他人にコントロールされている感覚もまた事実だ。米国の社会学者[p2p type=”post_tag” value=”charles-wright-mills”]チャールズ・ライト・ミルズ[/p2p]は、罠にはめられた感覚に囚われていると述べたが、今日の情報社会はこの感覚を過激に助長する。
探求し、発見しなければならない。
「探求」こそが人間を原理に導き、「発見」こそが原理への開かれをもたらす。
だが、「発見」も「探求」も焼け野原となっている。
「探求」と「発見」は本来、活動の高揚感、発見の喜びをもたらす原初的な行動だった。もう一度、「探求」と「発見」を我々自身の手に戻さなければならない。現代人の闘いは「発見」と「探求」のベースを再構築することにほかならない。
まず、我々の情報社会をハックしよう。
情報社会は罠にはめようとするが、同時に、有益な情報ももたらす。それを駆使することが第一歩である。だが、もっと重要なことがある。それは、情報を自分でハックすること。情報をもち、社会に出ること。
現実と情報の差異に気づき、修正する。これが、情報社会をハックする真の第一歩である。だが、所詮は戦法に過ぎない。遊撃兵だけでは敵地を占領することはできない。
私は、信州にベースキャンプを作ることを宣言する。
情報をハックして差異を作るには、情報と現実の相互作用が必要であるが、東京には現実も情報源も多くあるものの、それらの資源争いで闘いが起きている。
そして、多くの場合、大学や大企業、官公庁の連中が資源を押さえている。彼らから資源を奪うことはもはやゲリラ戦の様相を呈しており、さながらベトナム戦争である。
奴らが持たない資源を発見しよう。
奴らが持たない資源はごまんとある。
情報社会では電子空間にあげられたものを引き出すことは容易なものの、そもそもそこに存在しえないものを引き出すことは不可能だ。我々は、現実を知り、知られていない現実を知るというフロンティアに出向かなければならない。
現実は再構成することができる。バーチャルリアリティは我々に空間を無力にする力があるが、モノをC言語に還元することは不可能だ。モノを取り出すこと、これが情報社会の抵抗である。
フィールドワークをしよう。
人の身体とふれあい、料理を作り、服を編み、コードを書き、山に登り、川で泳ぎ、雨に濡れ、太陽に照らされ、雪を持とう。こればかりはバーチャル化できない、身体的な現実の経験である。
信州でモノに触れあい、遊ぶことは、モノを知ることの第一歩である。
モノを「探求」し「発見」することが、情報社会の逃げ道であり、ハックの方法である。そのためのベースキャンプを信州に作ることが、我々の最終目的である。
コワーキングスペース・信濃路ブレッドボード作戦案
信濃路ブレッドボードは「探究」と「発見」のベースキャンプである。探索の基地にはあらゆる武器と補給がとり揃えられ、未知なる領域に踏み込むためのあらゆる作戦構成や訓練プログラムが用意されていなければならない。
ベースキャンプは活動の前線であり休息の地である。遊び、学び、作り、書き、考え、休む。人間の基本的な欲望が満たされなければならない。信濃路ブレッドボードはそのための最高のベースキャンプを目指す。
① 自然豊かで居心地のいい仕事・制作環境の整備
信濃路ブレッドボードでは、だれもが居心地の良く美しい自然のなかで自身の仕事や制作・研究活動ができる環境を整えていく。
長野県は、江戸時代には善光寺参りや湯治、明治時代からは多くの訪日外国人が高原別荘を建て、日本人も追随し、高原の清澄な空気、美しい風景、温泉の癒しを求めて訪れてきた。長野県は今でも数多くの別荘や観光地を抱えている。信濃路ブレッドボードではさらに一歩進んで、長野の豊穣な環境のなかで共に仕事をするコワーキングスペースを構想する。
高原は思考を冴え渡らせ、風景は解放感をもたらし、温泉は疲れを癒し、森林は深淵を覗かせる。信濃路ブレッドボードはより良い環境で働くというライフスタイルを構築し、創造性を喚起する優れた環境を整える。建築や設備もまた、高原という独特な環境にあったものを取り揃える。建物は木をベースにしたものとし、家具もシンプルに、[p2p type=”post_tag” value=”personal-computer”]パーソナルコンピュータ[/p2p]も iMac を置き、情報収集のための書斎も充実させる。もちろん、清流や林道など、自然を気軽に楽しめる環境整備も欠かせない。
② 体験・学習プログラムの実施
信濃路ブレッドボードでは、だれもが自分の「探究」と「発見」をより楽しめるようになるための様々な体験・学習プログラムを提供する。
自然の豊かさに身をおいて仕事をし、モノを作り、思索を巡らせる愉楽を深めるにはプログラムの導きが必要だ。具体的には、プログラミング講習会、デザイン講習会など、ベースキャンプに集まる若者たちに武器を提供し研磨させるものが挙げられる。また、信州の自然と触れあうために、登山や川遊び、野草採取会など、精神を休ませながら新しい知恵を得るための自然活動プログラムが挙げられる。
これらを通して、日常生活とは異なる環境・知識・人間関係のなかで創造的な活動ができることを目指す。また、継続的に信州で学んでいけるように、宿泊システムやポータルサイトの作成など、利用者の気の赴くままにいつでも来られる態勢を整える。
③ 食彩豊かなバー&カフェの設置
美味しい食事は人を呼ぶ。交流を産む。美味しい料理は感銘を与え、畏怖させ、創造力を喚起させる。信濃路ブレッドボードでもまた、美味しい食事の交歓の場を提供する。
清泉寮のジャージーミルク・ソフトクリーム、軽井沢のパン、善光寺の蕎麦、蓼科のジビエ--。良い環境にはかならず美味しい料理があり、その土地固有の食事がそれぞれの環境の素晴らしさを示している。
信濃路ブレッドボードは、エンジニアやフィールドワーカー、デザイナー、詩作家、フィーチャリストなど、未来を構想し制作する者たちが集まるベースキャンプである。この空間に最も適した料理とは、スパイス、食材、技術の複雑性を体現するカレーである。
カレーは、近代では、市場や大学、オフィス街など、人が集まる場所で発展してきた。カレーは単に手軽に食べられるだけでなく、複雑な味覚に誘うツールであり、嗜好品でもある。嗜好品は、人が集まる場の必要条件だ。そして、信州は最高の酒所である。真澄、桔梗が丘ワイン、多種多様なクラフトビールが集まる。信濃路ブレッドボードでは優れた環境のなかで創造の複雑な世界に誘う料理を提供する。
④ コワーキングスペース事業
信濃路ブレッドボードでは、多種多様な人が集まるためのコワーキングスペースを提供する。
コワーキングスペースには、ノマド的な環境を好む者や自律的な者、新しいワークスタイルやライフスタイルを求める者が集う。信濃路ブレッドボードは彼らのベースキャンプとなるべく環境を整えることを使命とする。プログラミングや会計、マネージメントなどの参考書をはじめ、パーソナルコンピュータ、3Dプリンタ、プロジェクター、製図用品などの未来の仕事に必要なものをとり揃え、また、体験・学習プログラムとあわせて個々人がスキルを高めたり、近隣のベンチャー企業や学校、NPO法人などが人材育成や研究会の場に利用できる環境を整える。
信濃路ブレッドボードでは、都市部の箱詰め式のオフィスワークにとらわれないより優れたワークスタイル環境を提供し、日本社会全体で自由でかつ多様なライフ&ワークスタイルのあり方を長野から提示していく。
⑤ 全国のシェアスペースとのネットワーク整備
信濃路ブレッドボードでは、多種多様な人たちが全国的に交流可能なネットワークを整備する。
東京都内で働く者でも自由に動きまわるノマドであることが多い。信濃路ブレッドボードはより自由なワークライフを営みたい者がより理想的な環境を選ぶための全国的な情報ネットワークを整備する。具体的には、東東京の浅草橋ブレッドボードを中心に、西東京や京都の仲間たちとの相互交流・利用者交流のシステム整備と共有情報サイトの設立である。また、将来的には他のゲストハウスやシェアスペースとのポータルサイトを構築する。
信濃路ブレッドボードの達成目標
信濃路ブレッドボードはベースキャンプである。だれもが「夢」を構想し、実現するための基地である。
人間は創造する力を持っている。創造することで人間は、農業による食料問題の克服、船舶による大量輸送、機械化による衣料・生活用品の大量生産、[p2p type=”post_tag” value=”world-wide-web”]WWW[/p2p]による情報のグローバル化・民主化を達成してきた。しかし、人間はそれと引き換えにあまりに多くの豊かさを失った。信濃路ブレッドボードは「探究」と「発見」の基地である。誰もが「発見」と「探求」ができる場所を作ることをめざす。そのためには最高の環境に最高の場所を作らなければならない。
多くの利用者に「探究」と「発見」をしてもらうことこそ、信濃路ブレッドボードの願いである。