飲食店でがっかりした経験は誰にでもあるでしょう。それがお店のせいかお客のせいかは一口では言えませんが、さしあたり、こうした経験は、客側の期待や予測と店側のパフォーマンスとのギャップにより起きています。
簡単な例として、新橋の超人気店『俺のフレンチ』を取り上げてみましょう。
このお店の売りは、本格的なフランス料理が驚くほどの低価格で食べられることです。トリュフやフォアグラといった高級食材がメニューの多くに使われているのも特徴ですね。
こうした料理を安く提供できる秘密は、客席の半分を立食にし、時間制限をつけることで、従来のフレンチの2倍以上の客数をさばく回転率の高さとされています。それにより、料理の質を落とさずに価格を下げることができるのです。また、有名レストラン出身の料理人がシェフを務め、調理の腕も高級レストランにひけを取らないと謳っています。口コミサイトでも評価は高く、上質な料理が提供されるとの評判も得ています。
しかし、実態はどうなのでしょうか?
私の結論からいえば、『俺のフレンチ』の料理は高級レストランと同水準ではありません。実際に食事をして感じるのは、お店の接客がきわめて日本の居酒屋らしいことです。
私の印象に強く残っているのは、テンポの速さです。1時間50分という時間制限も驚きですが、ラストオーダーは終了45分前なので実質的には1時間少々で食事は終わってしまいます。料理が届くのも非常に早く、テーブルはあっという間に埋め尽くされ、店員が下皿の回収にくるほどでした。前菜はどれも1000円前後、メインディッシュでも1500円程度ですが、とにかく大味な調理で、素材も上質とはお世辞にもいえません。
『俺のフレンチ』が看板に掲げる本格フレンチとは、実際の味わいではなく、高級食材やシェフの経歴の輝かしさなどの外的なイメージに支えられています。ほかの部分に目をやれば、お店のスタイルの違いでは説明できないほど、食事の品位や質を軽視しているのがわかるでしょう。そして、このお店の高い評判と繁盛は、価格帯や格式などにより、本来はフレンチに縁がないであろう客層をターゲットにすることで成立しているのです。
接客の観点から見て、このお店が良いかどうかは難しい問題です。フランス料理を知らない人にとっては本格的な料理をカジュアルに食べられる良いお店かもしれません。口コミを見ても、こちらのお店を訪れる多くの人は大変満足しているのです。しかし、お店の接客を含めた食事全体をきちんと味わう姿勢を持つ人にとってはたんなる過剰演出のお店に過ぎません。その品位、誠実さの点で、『俺のフレンチ』の接客には疑問を投げかける余地があります。極端な例ですが、私たちが日々経験する期待と実際のギャップの原因のひとつがこうしたお店の過剰演出にあります。
では、飲食店の過度な演出に騙されないためにお客の側でできる対抗策は何でしょうか?
最も有効なのは、外部情報で「料理の毒味」をしておくことです。店の看板、建物、メニュー表、料理の盛りつけなど、さまざまな面にお店の態度はあらわれています。予約の際の電話対応でさえ、お店のなかの様子は十分に見てとれます。
都会を中心として多くのお店には、口コミサイトやブログなどに訪問記録が残っています。もちろん、料理に関してはその評言が信頼できるものか否か判断する必要がありますが、お店の外観やメニュー表など、画像で見られる部分を事前にチェックするだけでもかなり印象は違ってくるはずです。料理の腕が確かなお店ほど、美味しい食事への追求の姿勢が端々にまで意識されているのではないでしょうか。