接客批評をはじめよう、清澄白河サードウェーブ系珈琲ツアー!

ブルーボトルコーヒーをご存知でしょうか。今年、清澄白河に1号店を、青山に2号店をオープンさせたアメリカ西海岸発のコーヒー専門店です。カリフォルニア州オークランドに本社を構えるこのお店はサードウェーブと呼ばれる最新の珈琲ブームの代表格として席巻しました。創始者のジェームス・フリーマンが日本の喫茶店文化に影響を受けたと公言しており、日本国内でもオープン前から高い注目を浴びています。彼のお気に入りのお店は、渋谷の茶亭波頭と、銀座のカフェ・ド・ランブルだそうです。

サードウェイブとは、1990年代後半からアメリカ西海岸や北ヨーロッパで始まった新しい珈琲ムーブメントです。ファーストウェイブは、19世紀の後半から1960年代頃までの常飲飲料として親しまれていたものを、セカンドウェイブはスターバックスに代表されるような深煎りの濃いものを指します。

サードウェイブの特徴は、セカンドウェイブに対するカウンターとして出てきた文化であることに集約されます。セカンドで正統とされてきた技術をより洗練させることを旨とし、より良い焙煎や抽出方法を追究しています。セカンドがあくまでも味を規格化し、大量生産・大量消費を前提としているのに対して、サードでは農園単位で豆を仕入れることも珍しくありません。単一の苗木から採れた豆を使うことで品種や風土の個性を楽しむという味わい方もサードウェイブならではです。こうしたコンセプトには、良い仕事をきちんと評価できる仕組みを作り、持続可能な文化を築くことに繋げる目的があります。

今回はそんな新しい珈琲文化の実態を見極めるべく、現代詩人のNORANEKOさんの案内で、清澄白河のサードウェイブ系の専門店を4軒、フューチャリストの羊谷知嘉さんとまわってきました。各店の専門的な分析はNORANEKOさんがすでに詳細な記事を書かれています。僕は、珈琲店の接客の視点からサードウェイブを批評していきましょう。

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1.焙煎所兼店舗から始まった ARiSE Coffee Entangle



2014年9月に開店し、焙煎所とお店を兼ねて営業している ARiSE COFFEE ROASTERS の支店。ブルーボトルコーヒーの近くにあり、地元の憩いの場としても親しまれているお店です。店主の方は、日本発のサードウェイブ系珈琲として有名な Cream of the Crop of Coffee に焙煎士として携わっていたそうです

支店のこちらは、本店の3倍程の広さで、コーヒースタンドとしての機能に特化したお店とのこと。店内はガンダムのプラモデルなどさまざまな雑貨で飾られています。コーヒー豆は瓶詰めされた状態でカウンターに並べられており、4、5種類ほどのラインナップから選べます。

今回頂いた1杯は、ボリビアという豆のドリップコーヒー。香りにはまずまず楽しみがあるのですが、口に含んでからのキレのなさ、広がりのなさが気になります。値段は、350円。今回まわった4軒のなかでは安めですが、高いお店でも500円前後。サードウェイブの価格帯は普通のコーヒー専門店よりもリーズナブルです。

サードウェイブの特徴とされる焙煎方法や豆に対するこだわりは、日本で培われてきた独自の喫茶店文化とも近いと言われますが、値段設定を始め、その客層、利用シーンなど、お店のコンセプトはかなり異なっています。ゆったりとしたくつろぎが重視される傾向にある喫茶店に対し、サードウェイブコーヒーではそれ以外のところに魅力を持たせたお店が多いですね。

今回訪れた ARiSE Coffee Entangle は、ウェブの特集記事によると、地域密着型なところがいちばんの売りだそうです。店舗の装いなどは、立地も含めて適度な落ち着きとフレンドリーさがあり、確かに敷居の高さを感じるお店ではありません。コーヒー自体のクオリティはともかく、近くに立ち寄った人や、地元の人などを想定したお店としては適切なお店作りをしているように見えます。



2.珈琲界のアップル Blue Bottle Coffee



2軒めは Blue Bottle Coffee です。サンフランシスコの小さなガレージから始まったこちらのお店は、テック系雑誌Wiredの特集にも採りあげられたりと日本上陸以前からかなりホットな話題でした。今回訪問したのは平日の雨の日でしたが、行列は店外まで長く伸び、連日盛況している様子がうかがえます。

メニューは、ドリップ、エスプレッソ、アイスの3種類があり、シングルオリジン(単一の豆で入れられたもの)とブレンドから選べます。僕が頼んだのはドリップのケニア。ARiSEのものと比べると香りと味に奥行きがあります。価格は550円。他の店舗に比べると高いですが、味だけで言えばそこまで割高ではありません。

問題は、接客の観点で見たとき、Blue Bottle Coffee のクオリティはとても高いとは言えないことです。味に比して粗さが目立ち、再訪したいと思えるお店ではありません。

まず、お店に到着して目につくのはその巨大さと飾り気のなさです。正面はまだ良いですが、それ以外の外観は非常に無機質で、小さな工場のようです。この点は内装にも共通し、メニューボードやコーヒー豆を並べたショーケースなど、ブランドのイメージ演出が意識されている部分も台無しになっています。

たとえば、イートインスペース。イベントで使われるブースのような急ごしらえな感じが強く、未完成のお店のようですらあります。店舗の奥には倉庫のような作業空間がむき出しになっていますが、それもディスプレイとしては機能しておらず、店全体の眺めを悪くする要因となっています。

まとめれば、Blue Bottle Coffee の問題点は、すみずみまできちんと作られていないことにつきます。上手くないというよりは丁寧さを欠いているのです。サードウェイブ自体のブームもあり今は賑わっていますが、リピーターを獲得し、今後も同様にやっていけるかを考えると大いに疑問が残ります。ブームが落ち着いた後の展開に注視しましょう。



3.ニュージーランド発 ALLPRESS ESPRESSO



先日、スターバックスがオーストラリアから撤退するという話がありました。その要因の1つは、オセアニアのコーヒー文化が戦後のイタリア系移民が持ち込んだエスプレッソをベースにしていることだそうです。サードウェイブというと、淡口で酸味の強いドリップコーヒーが主流ですが、ALLPRESS ESPRESSO は先の3軒と異なりブレンドのエスプレッソとそのバリエーションをメニューの中心にしています。

もちろん、淹れ方や焙煎方法の追究、農園単位で買い付けをするという豆へのこだわりなど、その姿勢は大枠では共通しています。最初に書いたように、サードウェイブというコンセプト自体はスターバックスを始めとするセカンドウェイブへの反発が元にあるので、ニュージーランド発のこちらのお店も、アメリカのそれと別の文脈から出現したサードウェイブと言って良いでしょう。

今回僕が頂いたのはエスプレッソです。苦みと酸味のバランスが良く、カカオのような風味を感じられます。ヌガークッキーのような焼き菓子も、味に奥行きがあり、美味しい。味の凝縮感、高密度、頭ひとつ抜けている印象を受けます。

店舗に関しては、工場とカフェとが併設されている点で Blue Bottle Coffee や The Cream of the Crop Coffee と同じですが、こちらはほかの2店よりもしっかりとデザインされており好印象。工場部分はガラスで仕切られ、きちんとしたディスプレイとして店舗演出に組み込まれています。

外観も木目が基調の落ち着いたビジュアルで違和感がありません。全体的にはカジュアルなお店ですが、コーヒーも店舗もしっかり作られています。今回の4店のなかで最もクオリティの高いお店と言えるでしょう。



4.現場感溢れる The Cream of the Crop Coffee



最後の1軒は 、ベルギーのショコラブランド Pierre Marcolini を日本で運営している企業が立ちあげたコーヒー専門店 The Cream of the Crop Coffee です。

店舗は如何にも焙煎所という風で、現場感あふれる空間です。カフェスペースは最小限で、テーブルなどの備え付けもあまりありません。作業場にイートインが併設されている点では Blue Bottle Coffee や ALLPRESS ESPRESSO と同じですが、印象は大分違います。 Blue Bottle Coffee のようなちぐはぐ感はあまりない一方で、ALLPRESS ESPRESSO のような店舗設計の妙を感じるものでもありません。作業現場がそのままイートインスペースに流用されただけという印象です。

豆の種類は4種類あり、ドリップやエスプレッソ、カフェオレなどから淹れ方を選べます。今回はエチオピア・イルガチャフェをドリップで頂きました。フレーバーはそこそこ良い。全体的な味わいの印象は、存分に引き出されている感じはなく、まっさら過ぎる物足りなさを覚えます。

コーヒーを飲んでいるあいだも店員さんの目線や応対はなく、文字通り放っておかれている状態なので、イートインスペースも兼ねたコーヒー焙煎所という形容がふさわしいお店でしょう。




サードウェイブ接客批評のテーマはずばり、従来の喫茶店とは異なった時間の演出です。

このジャンルの傾向として、大規模な店舗は構えず、日本の喫茶店よりもカジュアルなスタイルを取ることが挙げられます。実は、清澄白河という街はサードウェイブ系珈琲の聖地として知られています。もともとこの辺りは閑静な下町で、東京都現代美術館をはじめとする芸術の街としても注目を浴びています。清澄白河のそうした特異なカラーはサードウェイブが拠点の1つとしている根拠でもあるでしょう。

土地にあった店作りという点から見ると、1店目の ARiSE Coffee Entangle、ニュージーランド発の ALLPRESS ESPRESSO の2店は、場所に見合った店舗作りをしていました。逆に Blue Bottle Coffee は、店舗の完成度以外にも、その点で一歩劣っていたように見えます。ブランドの知名度を利用した展開としても、土地に合った演出としても、しっくり来ない点が目立ちました。最後の The Cream of the Crop Coffee に関しては、現場感をむき出しにしたイートインスペースが独特ですが、焙煎所としての機能が強く、店舗が練られている印象は受けません。

サードウェイブというコンセプトは、その掲げていることが実現できるなら非常に魅力的なものです。おいしい珈琲が安価で気軽に楽しめるということの他に、喫茶店とは違って、コンパクトでカジュアルな時間を設計していることもその大きな魅力だと感じます。

接客、すなわちお客さんの過ごす時間をいかにデザインするかという観点で見れば、その方法はまだまだ未開拓の部分も多いのがサードウェイブというジャンルだと思いますが、今後の展開に大いに期待しましょう。

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接客批評をはじめよう、清澄白河サードウェーブ系珈琲ツアー!
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永木三月の接客批評:今年話題のサードウェイブ系珈琲は、焙煎や抽出の方法、シングルオリジンへのこだわり、サスティナブルなコーヒー文化の形成という企業ミッションだけでなく、セカンドウェイブや日本の喫茶店文化とは違う独特の居心地を特徴とします。これは、店舗デザインまで含めた接客の問題です。
Author
羊谷知嘉

永木三月 Mitsuki Nagaki

About 永木三月 Mitsuki Nagaki

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テイスティング専門家。食べ比べの会「おいしいもの味覚鑑賞会」主催。現在はフレンチレストランで働く傍ら、日本酒専門情報サイト「SAKETIMES」のライターとしても活動中。 「食べ比べ」をテーマに、高級レストランの批評から、日々作るごはんのレシピまで、食のあらゆる楽しみを伝えるべく活動しています。