NORANEKO散文詩 No.02「烏賊のさえずり‐The Tweet of Squid‐」





烏賊のさえずり‐The Tweet of Squid‐







寺山修司の『田園に死す』って映画のサントラを聴いてたんよ、/液晶が青く光って死に化粧みたいに額を染めて/「いかいか、いかいか、」ってあぶく立てるような声が、胸の暗がりから、湧いてね。/珈琲を飲み過ぎたんだとお坊さん時計の針が溶けて読めない/眼球の裏側に、真っ白い烏賊のお化けが、ぶるぶる、ぶるぶる、震えていて。
/いかいか(イカイカ)[副]《「いがいが」とも》赤ん坊が泣くさま。また、その声。おぎゃあおぎゃあ。「ちごの声にて―と泣くなり」〈今昔・二七・四三〉*1/エリザベス女王みたいな頭飾りとか、ドレスとか、ああいう感じのも、烏賊の皮膚で、/北山珈琲店より、『エチオピア イルガチェフ デミタス』艶やかなエナメルの光沢を湛えた濃縮エキスの液体。口腔を覆う、まったりとした粘性のなかで、ふわりと感じるワインのような発酵。温度が下がるとレモングラスを感じる。棘を感じる苦味が舌上に触れるが、少し経つと消えて行く。雑味ではあるが、エキスの濃縮技術と表裏一体のそれである。完全に無くすのはプロでも難しい。特筆は脳刺激である。前頭葉を強く刺激し、徐々に膨張し、後頭部に向けて開放されてゆくような酩酊。度数の強い洋酒にも匹敵する。/カーテンの束のようになって、前頭葉で生まれ、徐々に空気を孕んで膨らみ、後頭部に花模様のレースの襞を咲かせる。/珈琲を飲み過ぎたんだとお坊さん時計の針が溶けて読めない(使い回しかよ(漫☆画太郎かよ/あれはエチオピアの烏賊のお化けなんだと思う。/さいのかわらにあつまりし みずこ まびきご めくらのこ(映画『田園に死す』サウンドトラックより、『こどもぼさつ』)/5月の西日が母の顔に射して、俺は直視できなかった。/白地に赤いチェックのテーブルクロスがやけに記憶に焼き付いている。/エチオピアの烏賊の女王。人と魚のあいだを渡りきれなかった俺の兄弟の、夜の太母/ヘレル、(反転/子宮)ヘレル、/螺旋を、描く、レエス、(使い回しかよ(漫☆画太郎かよ/玄関を開けたら暗い台所でパンツ一丁の兄貴がコーヒー淹れてたんだよ、ポットが熱いからって右手に革手袋をして。換気扇に付属された照明が出っ張った白い腹を飴色に染め上げていて、吹き出した俺を兄貴は不機嫌そうに睨み付けた。/この兄貴は烏賊ではない。/私の身口意は他者の複声により編まれ、/俺はごめんごめん、と、左手を顔の高さに掲げた。死んだじいちゃんみたいに。/ミラーニューロン(英: Mirror neuron)は霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動するときと、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている。*2/眠りの泥が自己を象る。わたしは電灯の明滅のように連続体だ。なのに、布団のなかで、川原で乾く石の匂いを嗅いだ。あれは祖父の弟が住まう家の前を流れる川のものだ。わたしが産まれる前に交流は絶たれ、行ったこともないが。(ニューロンの発火パターンを星座と見るなら、神話もそこに産まれるのか)/詩は意識と無意識の境に立ち、両者の像と影の揺らぎに身を浸すことで湧いてくる。秩序と体制のもとにある記号を用いて、それらが成立するはるか以前の、原初の混沌から掬い上げた《千変万化に移ろう何か》を余白に幻像すること。それは輝きとも匂いとも磁力とも似ている。(燃え尽きた灰。/の先、指の殻を脱いだ触覚が透き通る。滅びに焼かれたものの、馥郁たる空無に、君の黄ばんだ両目が色めき立つ。「シの境地かい?」「ただの病気だよ、これは」/だが、詩人の神憑りもどきを見せつけられても、読者には自慰行為者の無様な奇態としか思えないだろう。ただ、自己の無意識にある原初の混沌を垂れ流すだけでは、芸術行為としては片手落ちである。秩序と体制、それをもたらす社会、幾千幾百の他者の声との対話があってはじめて、人は書けるのではないか。(俺の出生の暗がりでくすくす笑いをする、虹色のこどもたちに、お辞儀をする。人と魚のあいだを渡りきれなかった君たちの、よりしろになって。僕をして、君の、お辞儀をする。夜の水位は上がる。/「あなたの言葉や目配せが、わたしの裸形にふれかけて、いつも喉につかえるんです。」/洗われて、岸辺に燻る焼死体の頭部から燐の火が舌を出し、夜の星をぢろり、ぼじゅると舐める。煙をあげる流星の雨に濡れない爛れた手が抱き止める、乾いた股から生まれる赤子を、祝福の色で塗れず、身投げる光の手から、振り落とされる炬。焼ける天幕。それから、朝が顕れる。/ 産声に寄せて、パンイチの兄が奏でる弦楽は、電信柱に組織が仕掛けたガイガーカウンターに拾われて、沿岸の町に響き渡る。地平線に沿ってはしる、一羽のダチョウが交差点で立ち止まる。捧げるように、厳かな沈黙をふるわせて、黒い羽を広げた(それから、地殻の裂け目から、新たな暦が噴き出すの、それから、/魚がふたたび地に満ちる日の、朝がはじまる。

 

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*1コトバンク『いかいか』より引用

https://kotobank.jp/word/%E3%81%84%E3%81%8B%E3%81%84%E3%81%8B-430868

 

*2 Wikipedia『ミラーニューロン』より引用

http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%B3

 

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NORANEKO散文詩 No.02「烏賊のさえずり‐The Tweet of Squid‐」
Description
現代詩人NORANEKOと羊谷知嘉のヴィジュアル・ワークのコラボレーション記事。……洗われて、岸辺に燻る焼死体の頭部から燐の火が舌を出し、夜の星をぢろり、ぼじゅると舐める。煙をあげる流星の雨に濡れない爛れた手が抱き止める、乾いた股から生まれる赤子を、祝福の色で塗れず、身投げる光の手から、振り落とされる炬。焼ける天幕。それから、朝が顕れる。
Author
羊谷知嘉

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現代詩人、コーヒー愛好家、ドリップマン。